ヒットソングがまた1つ海に沈む。


雨がしとしと降っている。
ぼくは、立て付けの悪い引き戸を開ける。
玄関の上がり框には、薄く埃が積もっていて所々水の雫の跡がある。
溜め息をひとつ。
居間の入り口の柱の帽子掛けに茶色の肩がけ型の鞄と帽子を引っ掛けてガスコンロで湯を沸かす。



部屋からの明かりを頼りに庭に出て鉢植えの苗木に水をやる。
庭に面した洋間からは安物のレコードプレイヤーで再生される『faithful』が聞こえる。
(北側の玄関から東側にまわると庭に出ることが出来るのだけれども、ちょうどその中間地点、曲がり角にあたる所に水道の蛇口がありそこで如雨露に水を入れることになる。)


あと5分ほどで31だけども別段変わる事もなく読みかけの文庫本片手にソファに横になる。
30歳最後に煎れた珈琲は、やたらと苦くて豆の分量を間違えたみたいだ。
誰かに悪戯電話してやろうかな、と大人らしからぬ事を考えてしまった。

『三十二周忌』から抜粋。



今日の1枚。

"SWEET,BITTER,CANDY ― 秋?冬"